未来から来た謎の女
今日の黒子は、おそらく物語です。
あれは5月の半ばでしょうか・・・
暑い日があると思えば未だ肌寒い日が続いたりする季節でした。
時間は夜22時から深夜0時の間くらいだったと記憶しています。
テレビを流しているわけでも無く、時計も無い店内には時空が歪んでいるようです。
古来より「飲み屋」と呼ばれる所には、時計が存在しません。というのも、酔客を現実に戻さない為の心遣いだと聞いた事があります。
私は喫茶店のようなショットバーのような、お店を経営して早くも3年が経ちました。
広く暗い店内は8席のカウンターテーブルと4人が座れるボックス席が2つ、6人が座れるボックス席が2つという造りになっており、横長の店内の奥には趣味の悪いネオンが光っております。
お客はいつものようにいませんでした。
カウンターの右から2つ目の席には私の親父が座っているようです。
実の親父のはずなのですが、親父は何故か外国人でした。
実の親父のはずなのですが、親父とは初対面のようでした。
金髪よりもブロンドに近い髪の色は、とても綺麗です。
アメリカ人なのでしょうか?
親父の表情は固く、ここ数年笑う事も怒る事もしていないのか、顔には少しの皺もありませんでした。
暗がりのせいもあって無表情、無感動な人間さが助長されているようです。
なにより印象的なのが珍しい柄の長袖シャツと無機質な親父がピッタリとマッチしている所でした。
年齢は30代とも50代とも不明です。せめて声だけでも聞けるのなら判別できたのかも知れませんが・・・
親父は、つまらなそうに頬杖をつきながら、右手でポルノ漫画の頁を捲っている所でした。
カウンターの左から3つ目の席には私の弟が座っています。
その子は12歳か13歳の栗毛で、小型のゲーム機に向かって目を剥き出しています。
あまりに熱中する彼に対し、声をかけられる人間がいるとすれば、よっぽど空気の読めない人間か、ゲームをすることで彼自身に悪影響が出ると盲信し、心配する母親ぐらいではないでだろうか。
実の弟のはずなのですが、弟はハーフでした。
実の弟のはずなのですが、弟とは確実に初対面でした。
本来、私にはアジア系黒髪の親父が1人いるだけのはず。
兄弟といえば、兄はいるが弟はいないはず。
私の家族構成を簡単に説明すると、このようのなるのだが・・・
何故、私が目の前にいる初対面と思われる2人の男を親父、弟とそれぞれ認識しているのか?
それは”謎の女”が教えてくれたからなのです・・・
その”謎の女”は突然やってきた。
そして”謎の女”は迷う事なく私の真正面、カウンターの真ん中の席に腰を降ろした。
私はまず、手荷物を持っていない、香水の匂いがしない、化粧が濃くない、服装がケバくない、初対面である、時間帯が早すぎる、という6つの点から水商売を生業としている女性では無いと推測した。
普通、水商売に従事している女性は大きめのカバンを持っており、中には化粧道具、香水、衣装、装飾品、名刺、生理用品などが沢山入っているのだ。そして、彼女らは自分の勤める”お店”の終了とともに徘徊を始めるため、時間帯はいつも深夜1時半過ぎなのだ。
さらには親父と弟の間3席のスペースの間に迷わず座った点から1人で来たのだと推測し、その女に対する親父と弟の無関心さにいづれの知り合いでも無いと推測した。
普通、2人以上で来店する場合、カウンターの状況を見てボックス席に座ろうか迷う所である。そして大半はボックス席を選ぶのである。
このような点から、その女は「”お水”では無く、”一人で来店した”」となる。
これが夜の定石(セオリー)である。
3年間この商売を続けてきた私の洞察力もなかなかのものだなと思い、己に酔いしれていたので「いらっしゃいませ」の言葉すら忘れていたようだ。
しかし、3年間の間に一度も”見知らぬ素人の女性”が夜中に一人、いかにも暗く不穏な空気が流れる店内に足を踏み入れる事は無い。
これも夜の定石(セオリー)である。
結果的に「夜のセオリー」は正しかった。
確かに、その女は”お水”でも無く”一人で来店した”事に間違いもない。そして、どうやら”見知らぬ素人の女性”でもないようだ。
そこが彼女を”謎の女”と呼ぶ由来なのだ。
彼女は飲み物を注文する事なく、正面にいる私に言った。
謎:「こんばんは、私はアナタの嫁です」
私:「えっ!?」
謎:「驚くとは思いますが、未来の私とアナタは結婚しています」
私:「未来? ですか・・・?」
そこでしばらくの沈黙が続くのだが、私はまず「この女はイカれている、そもそもこんな夜中に一人で来る事がおかしい、年齢はいくつぐらいだろう?」との印象を持った。
謎:「水商売じゃなさそうな女が夜中に一人で現れた事が不思議だった、手ブラで来たので妙な親近感を持った、私の頭がおかしいんじゃないかと思った、私は何歳かと疑問に思った、私の顔はイマイチだと思った、とアナタが教えてくれました。ちなみに私は26歳です。」
じっと私の目を見つめた女は畳み込むように言った。
私:「えっ!」
この女、なぜ俺の心が読めるのだ??顔は確かに”イマイチ”中の”イマイチ”で節分の豆みたいな顔だ・・・。
”イマイチさ”の概念は、顔の作りというよりは肌年齢の差のように感じる。確かに私の持論として「23歳と26歳の肌では潤いが違う」というのがある。
この可笑しな状況に只ならぬ胸騒ぎを覚えたのか、2つ左隣の親父は私と女を交互に見ている。
同じく、2つ右隣の弟は小型ゲーム機の画面より10cm程左の空間を見つめている。すでに弟の手からプラスチックの擦れるような音は聞こえてこないので、ゲームよりも”謎の女”の方がおもしろいと思ったのか、逆に恐怖を感じて警戒しているのか、とにかくゲームの事は完全に忘れているようだ。
3人の男は”まばたき”を忘れていた。
そして女は続けて言った。
謎:「私は、アナタの事を全て知っています。質問をどうぞ」
私:「では、私の嫌いな食べ物は何ですか?」
私は興奮を隠す為にあえて低い声で言った。
謎:「山芋サラダです」(即答)
私:「そうですか・・・」
正解はポテトサラダなのだが、あえて言わなかった。そもそも山芋サラダというものは実在する食べ物なのだろうか・・・
私:「では次に、私の好きなプロ野球の球団はどこですか?」
謎:「ちょっと待ってください。先程の答えはポテトサラダです。」
私:「あっ!・・そうですか・・・では球団はどこですか?」
謎:「阪神です」(即答)
私:「ふ〜〜ん・・」
本当は贔屓の球団は無いはずなのだが、確かに間違ってはいないような気がする。将来的に熱烈な阪神ファンになりうる事も充分に考えられるからだ。
私:「では、私の好きなJ-リーグのチームは?」
謎:「特になさそうです。アナタからサッカーの話など一度も聞いたことがありません」
眉ひとつ動かさず即答を繰り返す彼女には自信がありそうだ。
私:「そうですか」
確かに、私はサッカーの事には、疎く無知である。
謎:「アナタは13歳の時、よく怒られましたね」
続けて彼女は言った。
私:「えっ!?・・・はい・・・でも逆に質問ですが私は何の事で怒られたのですか?」
私は内心驚いた。というのも13歳頃の私には確かに辛い思い出がある。しかし、この”謎の女”が本当に未来から来たのか?という確信に迫る為に私は質問を重ねた。
謎:「何かの理論を周りに押し付けたのですね。そして全員から理想論だと罵られた。結果、アナタは塞ぎこんだ性格になった。その理想論の名前は・・・」
私:「名前は・・・?」
私は息を呑んで女の口元を凝視した。そして彼女は確かに言った。
謎:「その理想論の名前は・・・ソーゲル理論」
あわわ・・・
会話は淡々と続き、次々と私の事実を意識と無意識を言い当てられた。
と、ここで私が昨日見た夢の話は終わりにしたいと思います。
夢オチということです。
今日のテーマは「夢」です。
先日、親しき友人の結婚式があり、何らかの影響を受けた事が原因だとは思いますが上記のような夢を見たことは事実です。
そこで、私はこの「夢」についての分析をするが如くここに書す事にします。
尚、ここで論じられているのは「睡眠中に起こる外的現象」としての夢のことです。
では夢のメカニズムを簡単に御紹介させていただきます。
「夢とは」
1・無意味な情報を捨て去る際に知覚される現象
2・必要な情報を忘れないようにする活動の際に知覚される現象
と、この2つの説が有力と言われているようです。
1・無意味な情報を捨て去る際に知覚される現象
という観点から見ると、私は、その友人の結婚を忘れ去りたい事実(情報)として認識しているのかも知れません。
理由とすれば「悔しいから」「羨ましいから」「以前のようなスタンスでの交際関係は無理だと思っているから」だと思います。
正直な所、私は私の為に記憶(情報)をコントロールしており、純粋に祝っている訳では無かったことに気付きます。
2・必要な情報を忘れないようにする活動の際に知覚される現象
1の現象と比べ逆説ともとれるこの現象の観点から見ると、私はその友人から「何かを学ばなければならない」と強く感じたのかも知れません。
知識とは、知識にしか非ず。知識は排出され咀嚼されることによって意味を持つもの也、しかし知恵とは活動の多くに利用されるもの也。
要約すれば、私はその結婚式を通じて情報を知恵に変換する必要があると思ったのかもしれません。
そして私は「運命」という科学的不可解な現象に対し、理解を示す時期に来ているのかも知れません。
重ねて言えば「ソーゲル理論」の限界を認めざるをえない時期に来ているのかも知れません。
できれば気持ちの面でも、お祝いをしたいのですが現在の私からは言葉だけでの祝辞とさせて戴きます。
「あなたのソーゲルは無限かも知れませんよ。お幸せに・・・」
黒子
0 Comments:
コメントを投稿
<< Home